これまでの記録

日常のあいさつや動きが演劇とダンスになる【前編:演劇】|Open ARTS

2026年7月12日[日]

場所:OpenDNA Space

Spaceでの初めての体験会
7月の晴れた暑い日曜日、OpenDNA Spaceにて、同Spaceの正式オープン前のプレ企画を開催しました。アート、哲学、身体表現(ダンス)、演劇を実践する子どものためのプログラム「Open ARTS」の体験会です。

今回は、10月に開講するOpen ARTSプレコースの講師を務めるアンディさんとたくみちゃんがそれぞれ約1時間ずつ、演劇とダンスの世界へと参加者の子どもたちをいざないました。その様子を、前編と後編の2回にわたって紹介します。

講師が子どもの頃に出会った演劇ゲーム
最初の時間は演劇です。

講師のアンディさんはアメリカ合衆国出身の演出家・英語演技コーチ・俳優で、日本に20年以上住んでいます。まずはアンディさんが英語に日本語を交えて、5人の小中学生の参加者に自己紹介をしました。参加者にも、この時間は英語を使うけれど、日本語を使ってもいいよと説明していました。

アンディさんはシカゴ出身で、10歳から演劇を始めたそうです。そのときに行った演劇のゲームを今日は試してみるというお話がありました。笑顔と大きな身振り手振りも使って語りかけるアンディさんに、子どもたちからも笑い声が出て一気にリラックスした雰囲気になりました。

想像のキャッチボール
1つ目のゲームではボールを使います。ボールといっても本物のボールではなく、想像した、目には見えないボールです。アンディさんが両手を空中で動かすと、たちまちボールが現れます。本当にボールを放り投げてキャッチしたように見えました。

そのボールをアンディさんが1人の参加者に向けて投げ、参加者はボールを受け取ります。手の動きや手を動かすタイミング、視線の合図や呼吸によって、想像上のボール遊びが始まりました。

みんなが投げているボールは、どんなボールなのでしょうか。最初は、小さくて硬い野球のボール。次は?アンディさんが参加者に、どんなボールがいいか尋ねていきます。テニスのボール。野球のボールとは、触ったときの感触や、投げて受け取るときの感覚がどのように違ってくるのでしょうか。

さあ次はどんなボール?どんな大きさ?言葉ではなく、手を使ったジェスチャーで示してみます。バスケットボールなら、空中でドリブルできます。ほかには、どんな重さのボール?とても重い、ボウリングのボール。持つと、重さで自然と腰が曲がります。今度は、軽くて大きい、例えばビーチボール。口で空気を入れて膨らませて、片手で軽々と放り投げられます。どこまで飛んでいくのでしょう?

ラグビーボールも卓球のボールもあるし、サッカーボールを蹴ることもできます。

このゲームの最後には、どんなボールかを言わずにほかの人に投げて、その様子から何のボールなのかを当てっこしました。熱いボールや冷たいボール、ハリネズミが丸まったボールも!持ったら痛そうです。

さまざまな空間を歩く
体が温まってきたところで、部屋の端から端までみんなで歩きます。次のゲームが始まったようです。

まずは自由に歩く。次は、床が熱いと想像して歩いてみる。足がなるべく床につかないように爪先立ちで、できるだけ早く向こう側へ行こうとする参加者たち。床が、滑りやすい氷だったら?はちみつでベトベトだったら?スパイクが突き出す床だったら?たくさんの子犬で床が埋もれていたら?床が水浸しなら?どんなふうに歩くのでしょうか。

どうして向こう側へ歩いていくのか、理由や動機にも注目してみましょう。例えば向こうに食べ物が置いてあるなら?自然と早足になり、着いた途端に好物を頬張ります。宿題が待っていたら、ついつい足取りが重くなります。お金があったら?我先にとあちらの壁へ突進する人もいます!

今度は、アンディさんが1人の参加者に、ほかの人には聞こえないように小声で、この空間がどんな状況なのかを伝えました。その設定を聞いた参加者は、そのつもりで空間を横切ります。

ある参加者は、歩き出す前に少し嫌そうな様子で手を顔の前で振り、急いで向こう側へたどり着いて、ほっとした様子をしていました。「ここはどんな場所かな?」とアンディさんが問うと、見ていた参加者から「暑い?」という回答が。それもありだけれど、設定は「くさい靴下が床に転がっている」でした!

次に秘密の設定をもらった参加者は、うれしそうに歩き、何かを食べていました。好物の食べ物を取りに行ったのでした。

相手に届ける自己紹介
ここまでは主に体の動きで表現していましたが、ここで参加者たちは声を出すよう促されました。アンディさんが伝えたのは、簡単な英語を使った自己紹介の言葉です。「Hello. My name is ~. Nice to meet you.」参加者たちは何度か口に出し、すぐに覚えていました。

まずは1人ずつ、壁際に行き、反対側の壁にいるほかの人たちに向かって、聞こえるように自己紹介をします。みんな大きな声で元気に話していました。次に、半数の人が一方の壁に、残りの半数の人がもう一方の壁に並び、向かい合った人にそれぞれ、「Hello! My name is …」とあいさつをします。同時に話すため、みんな一段と声が大きくなりました。

今度は、1人が一方の壁、もう1人が反対側の壁のそばに立ち、残りの人たちはその2人の間に入るように部屋の中央に並びます。壁際の2人は互いにあいさつを交わしますが、間にいる人たちが拍手したり、話したり、音を立てたりしてみます。邪魔された格好の壁際の2人は、無事にあいさつができるのでしょうか。声を張り上げ、手を挙げて大きく振るなど、障壁がある環境でも、一生懸命、相手に伝えようとしていた姿が印象的でした。

1脚の椅子のある空間から演劇のかけらが生まれる
いよいよ最後のゲームになりました。背もたれや肘掛けのない椅子(スツール)を1脚使います。

部屋の真ん中あたりに置かれた椅子に、参加者が1人ずつ座りに行きます。まずは好きなように。でも、もしここが特定の場所だったら、どんなふうに座るのでしょうか。アンディさんに、椅子のある場所の設定を尋ねられた参加者は、「教室」を提案し、ランドセルを背負っている仕草で椅子に座り、ランドセルを下ろしました。

「家」と答えた参加者は、椅子に腰を下ろすと、何か(おやつでしょうか)を食べ始める仕草をしました。「飲食店」なら、座る前におなかを押さえて空腹を表し、公園のベンチなら座ってから暑くて手であおぎます。

同じ公園のベンチでも、寒い日だったら震えるし、真夜中の12時の公園だったらどうでしょう?夜だったら少し怖いかと思いきや、その設定で演じた参加者はベンチに座って眠そうにしていました。確かにそれも大いにあり得ます。同じ設定でも、どんなふうに表現するか、発想はさまざまです。暗い公園で怖がっているバージョンを演じた参加者は、変な声が聞こえるという設定を思いつきました。

アンディさんの提案は時空を超えます。時代が昔で、着物を着ていたら、どんなふうにベンチに座るのか?地球外生物の宇宙人もいる未来の公園なら、どう振る舞うのか?こうした設定で演じるには、具体的にどんな時代なのか、着物を着たときの所作はどうなるのか、どんな未来で、自分はどんな人なのか、など、想像の広がりやこれまでの経験、知識も必要になります。

このゲームも当てっこクイズで締めくくられました。汗を拭いている様子でサウナ、何かを肩のあたりに装着する様子でジェットコースター、座ってから上体を後ろへ反らし、リクライニングになる動作で歯科医院、など、参加者たちは素早く答えを出していきます。参加者たちの観察力の鋭さと発想の豊かさが感じられました。

映画館を想定した参加者によるポップコーンを手にして食べる様子は、場面を象徴的によく表していました。アンディさんからは映画館の椅子に関するアドバイス。最前列の座席なら正面から歩いていって座れますが、それ以外の座席では、椅子が並ぶ列を通って座席に着くことが多いでしょう。そうしたちょっとしたポイントが、その場所らしさを強めます。

演劇ゲームに「間違い」はない
演劇の時間が終わりに近づきました。みんなで輪になって、振り返りをします。

アンディさんからは、演技は、実はいろいろなことをいっぺんにやり過ぎると、かえって伝わりづらい、というお話がありました。「何が好きだった?」と問われた参加者たちは、椅子に座るゲームや自己紹介のゲームが面白かったと答えていました。アンディさんは参加者に、「演劇のゲームはほかにもたくさんあります。間違えても大丈夫で、楽しむのが大切です」と伝えていました。

日常的な場面から想像上の世界まで、幅広い設定で表現を試みた参加者たち。言葉を相手に伝えたり、話さずに身体だけで状況を表したりと、ゲームから演劇が浮かび上がる瞬間が見られた1時間でした。

後編では、続いて行われたダンスの様子を紹介します。