これまでの記録

日常のあいさつや動きが演劇とダンスになる【後編:身体表現・ダンス】|Open ARTS

2026年7月12日[日]

場所:OpenDNA Space

たくみちゃん体操

5人の参加者たちは、1時間ほど演劇ゲームをした後でも、十分元気が残っているようでした。10分程度の休憩の後、次に行う身体表現の講師であるたくみちゃんが、「始められる?準備はOK?」と声をかけると、「はーい!」と即座に力強い返事が聞こえてきました。


まずは講師の自己紹介から。「たくみちゃん」は活動名で、コンテンポラリーダンスをしています。「コンテンポラリーダンスってなんだろう?と思うかもしれませんが、例えばこんなこともしています」と言って、たくみちゃんがタブレットで子どもたちに見せたのは、以前制作したという「たくみちゃん体操」の動画でした。


「たくみちゃん体操」の動画は6本あります。最初の動画ではアノマロカリス(古代生物)として登場したたくみちゃんが、恐竜を経て、最後にはホモサピエンス(ヒト)として歩きます。どの動画でも同じ服を着ていて、身体の動きだけで、「何者なのか」を表現しています。

生物の進化をたどる

「短い動きだから、ちょっと一緒にやってみようか」とのたくみちゃんの声かけで、体操が始まりました。「みなさんご一緒にどうぞ」と言われ、参加者たちを見ていた大人たちも巻き込まれます。


両腕を思いきり上へ伸ばしたり。右腕と右脚、左腕と左脚を同時に出して歩いてみたり。いわゆる「なんば歩き」と呼ばれる、昔の日本で見られた歩き方です。小指を立ててポーズを決めたり、腰を低くしたり、牙をつくったりもしていました。ホモサピエンスになると、こんにちは、とほかの人にあいさつをします。しゃがんだり立ったりも自由自在にできます。


少し動かしただけで体がほぐれてきました。参加者たちは、たくみちゃんの動きをまねしながら、いつの間にか身体で地球上の生物の進化をたどっていました。

手をたたいて渡す

次に、みんなで輪になります。たくみちゃんが両手を打ちつけて、パンっと気持ちのいい音を立てました。それを引き受けるように隣の参加者も手をたたき、リレーのバトンを受け渡すように、隣へと1回ずつの拍手を送っていきます。前の人の音を聞いて、自分もたたく。次の人がそれを聞いて、また次へ渡す。


前の人がたたいてからすぐたたくのではなく、少し間を置いてからたたいてみる。輪をだんだん大きくしながら、隣の人と距離が離れた状態で、手をたたく。もっと変化をつけてみる。頭の上から拍手を受け渡したり、下から渡してみたり。


徐々に体の動きが大きくなっていきます。歩きながら、場所を移動しつつ続けてみる。流れるような身体の動きも見られ、拍手と拍手が見えない糸でつながっていくようです。静かなエネルギーのうねりのようなものが生まれていきます。手をたたくのをどんどん早くしていきます。すると、しまいには、打つ音が重なっていきます…。


ここでいったん、みんなで水分補給をしました。

目と指でなぞる

今度は床のワークです。まずは座ってみましょう。何が見えるかな?床が見えます。床には木目があります。お気に入りの木目を見つけてみましょう。木目を指でなぞってみましょう。ゆっくりと。


「この木目は、木が長い時間をかけて成長して出来たものです。いったい何年くらいかかったのか。そんなことを想像しながら、なぞってみましょう」


「片手の人差し指だけでなく、もう片方の手も使ってみて」


参加者たちは床の木目を見つめ、なぞりながら、体を床に沿わせて動いていきます。


「左手と右手で別の木目をなぞってみる。異なる時間を、1つの体の中でトレースしている」


木目をなぞることは、木が生きた年月をたどること。指先から体の中を伝って、木の時間が参加者の体の中へ流れ込んでいくような感覚になりました。


木目をなぞりながら少しずつ立ち上がっていき、体をゆっくりと起こして、手が床から離れても、木を触っていなくても、空中にある手で木目をなぞっていきます。


今度は、木目の代わりに周りの人をなぞってみます。実際には触らずに。ゆっくりと、参加者同士の距離を離していきます。ずっとなぞりながら。大きなガラスを通して見える、外の世界にあるものもなぞってみましょう。何が見えるかな?例えば電信柱。

椅子と関わる

床のワークが一段落したところで、この時間の最後には見学者に向けてショーイングを行いましょうと、たくみちゃんが参加者に話しました。ショーイングのダンスの構成は、手をたたく→なぞる→「サスケ」です。たくみちゃんはその順番を紙に書いて、みんなに見えるように壁に貼りました。


たくみちゃんがサスケと呼んでいるワークはどんなものなのでしょうか。試しにみんなでやってみます。


いくつかの椅子を使います。2人1組で、好きな椅子を選んで持ち、持ったまま歩き回ります。椅子をどこに置くのがいいでしょうか。言葉は使わずに、自分と相手の意思を探りながら、2人が納得のいく場所に椅子を置きます。5人の参加者にたくみちゃんが加わり、6人で3組をつくって、組ごとに1脚ずつ、椅子を空間に配置しました。


椅子を置いた後はいったんみんな壁側に戻ります。そして、1人ずつ立ち上がり、配置された3脚の椅子にアプローチします。椅子の周りを歩いてみたり、椅子に座ってみたり、背もたれに手をかけてみたり。何をするかは自由です。3脚の椅子を経た後は、好きなポーズをして止まります。


2人目以降は、椅子に加えて、ポーズを取りながら静止している人にも絡んでみます。視線を送ってもいいし、周囲をぐるぐる歩き回ってもいいでしょう。相手が嫌がりそうなことはしないという雰囲気が自然に形成されていました。


6人全員がポーズを取ったら、参加者の一人に「はっ」と掛け声を出してもらい、それを合図に、みんなで客席(見学者がいる方向)に向けてそれぞれ好きなポーズを取ります。「最後はお辞儀しましょう」と締めくくるたくみちゃん。

観客に向けたショーイング

みんなで水を飲んで一息つくと、次はいよいよショーイング本番です。どんなコンテンポラリーダンスになるのでしょうか。


まずは全員で円陣を組み、それから手をたたいて、拍手を隣の人へと送っていきます。自由な場所へ移動しながら行い、また円になって、手をたたく速さをどんどん上げていきます。パンパンパンパンパンパン!


次は床にしゃがんで、木目を見て、なぞっていきます。ここで、たくみちゃんが音楽をかけました。木目をなぞりながら徐々に立ち上がり、手が離れてもまだなぞる。部屋の外へ目を向けて、外のものをなぞる。視線と指先から外のものとつながり、遠くへ意識が向くことで、身体が拡張していくようでした。


見学者がいる位置からは、参加者が外の何を見ているのかは見えません。それなのに、参加者の様子から何を見ているのかが見えてくるような気もします。一方で、何を見て何をなぞっているのかわからないからこそ、何かに導かれているような参加者の身体の動きが面白いものに見えてきます。


サスケの場面では、1組目の2人がどこに椅子を置くか無言のバトルを繰り広げていて、見学者からは静かな笑いが起こりました。それぞれの組が椅子を配置し終わると、1人ずつ3脚の椅子の周りを縫うように歩くなど動いていき、思い思いのポーズを取ります。音楽が止まっても、ダンスは止まりません。


最後のポーズも決まり、お辞儀と同時に見学者から大きな拍手が湧きました。参加者たちからも拍手が上がります。

これもダンスなんだ

終演後、たくみちゃんが見学者に感想を尋ねました。「ショーイングでは順番を覚えられるのかなと思っていたら、ちゃんと覚えていて、集中してやっていた」「これまで知っていた踊りっぽく見えなかったけれど、これもダンスなんだ、と思った」「みんな笑顔でよかった」といった声が聞かれました。


参加した子どもたちからも感想を聞きます。「手でたたくのが好き」「なぞるやつがよかった」「どれもやったことがないことだったけど楽しかった」「サスケが楽しかった」「またやりたい!」


ちょっとした動きから始まって、参加者たちが集中して入り込んでいき、見る者はそこで起こっていることに引きつけられていく。今この時しか目撃できない、決して再現できない、ずっと見ていたくなる瞬間が、何度も生まれた体験会でした。